「お前が消えて喜ぶ者に お前のオールをまかせるな」
中島みゆきさんの『宙船』のこの一節が、今の私には痛いほど響く。
30年間、この会社という大きな船の漕ぎ手として、必死にオールを振ってきた。荒波の日も、進路が見えない霧の日も、私はこの船の一部として役割を果たしてきた自負がある。
しかし、最近の船内の景色は一変した。 「世代交代」という名の下に、長年現場を支えてきた50代の同僚たちが、一人、また一人とプロジェクトの主要な舵取りから外されていく。かつて私たちが握っていたオールは、いつの間にか若手の手に渡され、私たちはただ、甲板からその様子を眺めるだけの「乗客」になりつつある。
惰性で生きるか、自分の人生を歩むか
「定年まであと数年、波風立てずに過ごせばいい」 「退職金のために、今はじっと耐えるべきだ」
そんな声が自分の中からも聞こえてくる。けれど、何もしないまま、ただ目的地へ運ばれていく時間は、私にとって「死んでいる」のと同じではないか。会社という船に「しがみつく」姿は、果たして私が30年前に夢見た、大人としての姿だっただろうか。
『宙船』の歌詞にある問いかけが、今の自分に突きつけられている。
その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ おまえの足で登ってゆけ その船を漕いでゆけ
オールを、自分の手に取り戻す
53歳。世間から見れば「落ち着くべき年齢」かもしれない。 けれど、24歳で自立した娘の背中を見ていると、親である私も「自分の人生を生きている姿」を見せたいと思う。
30年間の勤続で得たものは、退職金という数字だけではないはずだ。 何度も困難を乗り越えてきた経験、人との繋がり、そして何より、自分という人間を信じる力。それらを持って、私は今の船を降りることを決めた。
自己都合退職。 それは「逃げ」ではなく、私の人生の主権を取り戻すための「戦略的撤退」だ。 これからは、会社の都合で用意されたコースではなく、私が私自身の価値を証明できる場所で、私だけのオールを握りたい。
最後に
もし、私と同じように「世代交代」の波の中で、自分の居場所に迷っている同僚がいるならば、伝えたい。
私たちの価値は、役職やプロジェクトの担当で決まるものではない。 「お前のオールをまかせるな」という言葉通り、自分の未来を、誰かの手に委ねてはいけない。
たとえ小さな舟であっても、自分の意思で漕ぎ出す海は、今の甲板から眺める景色よりもずっと広く、自由なはずだ。
53歳。私の「宙船」は、今、新しい海へと向かう決意を固めつつある。
Share this content:






